ホーム>文化>小倉百人一首について>17.ちはやぶる 神代(かみよ)も聞(き)かず 龍田川(たつたがは) からくれなゐに 水くくるとは 在原業平朝臣
小倉百人一首の十七首目は在原業平朝臣の歌です。在原業平は行平の兄弟でともに平城天皇の孫、阿保親王の子であり、臣籍に降下し在原朝臣の姓を賜っています。業平は六歌仙のひとりとして、また伊勢物語の主人公ともいわれており恋多きプレイボーイとして有名です。この歌は龍田川(竜田川)を紅葉が真っ赤に染めた様を見て、その美しさに感嘆して詠んだものとされています。
歌の解釈としてはおおよそ、「太古の昔である神代の時代でさえもこのようなことは聞いたことがありません。なんと龍田川の水がここまで深い紅色になり、美しい絞り染めになるとは」です。『ちはやぶる』は『神』につながる枕詞です。いろいろな奇跡が起きた神話の時代でも、こんな奇跡のような話は聞いたことがない、とまで龍田川の情景をほめたたえています。龍田川の水が絞り染のように真紅に染まっている景色がありありと見えるような、またその美しさに感動して身体をふるわせている業平の姿までもが目に浮かぶような歌です。
ただし、この歌は屏風歌です。業平は実際に龍田川の紅葉を見に行ったわけではなく、屏風に描かれた絵を見てこの歌を詠んだのだそうです。屏風絵を見てこれだけの情感豊かな歌を詠めるのですから、業平の歌人としての心豊かではかり知れない質の高さを感じさせます。業平が六歌仙のひとりなのも納得です。
龍田川も業平にここまでほめたたえられればきっとうれしいことでしょう。プレイボーイとして有名な業平の「褒めるテクニック」を垣間見ることができる作品ですね。
藤原定家は在原業平のこの歌を百人一首の十七首目に選びました。この歌の技巧の素晴らしさのみでなく、情景がありありと思い浮かぶような感動的な歌ですから、これは定家に選ばれて当然といっていい、文句なしの作品でしょう。