ホーム>文化>小倉百人一首について>38.忘らるる 身をば思はず 誓(ちか)ひてし 人の命の 惜しくもあるかな 右近
小倉百人一首の三十八首目は右近(うこん)の歌です。右近は醍醐天皇の中宮に仕えた女房で、右近近衛少将である藤原季縄の娘なので右近と呼ばれていたそうです。この歌は、恋愛関係にあった男性に忘れられてしまった女性の深い恨み心を感じさせる歌として有名です。女子を怒らせると怖いですから世の男子諸君は気をつけなさいよ。そんな教訓にもなりそうな歌ですね。
歌の解釈としてはおおよそ、「あなたに忘れられてしまった私自身については特に何とも思いません。でも、いつまでも私を愛すると神に誓ったあなたが誓いを破った神罰で死んでしまうかと思うと、あなたの命も惜しいかなと思います」です。「神に誓って私を愛すると言ったあなたが神罰を受けて死ぬのはもう決まっている。でもそんな運命のあなたもちょっと可哀想ね」、そんなふうに昔恋仲だった人から言われたら、あなたはどう思いますか。自分を捨てた男は神罰を受けて死ぬ。それがもう決まり事だとばかりに書かれているのが、ちょっと怖さを感じさせますよね。
オカルトや怨念といったものが非科学的であるとして否定されがちな現代とは違い、平安時代は怨念や神罰といったものを強く信じる人たちは多かったのでしょう。女性の恨みは怖いものです。こんな歌を詠まれてしまったのでは、右近の元彼は背筋が凍るほど恐ろしい思いをしたかもしれません。
たとえ現代に生きる男子といえども、女子たちの恨みを買わないよう気をつけたいものです。悪いことをすれば、まわりまわって結局は自分に返ってくるものですから。
藤原定家は右近のこの歌を百人一首の三十八首目に選びました。定家もなかなか衝撃的な歌を選びましたね。定家はこの歌のどんなところが気に入ったのでしょうか。もしかしたら、後々の男子諸君のために、女子の恨みは怖いんだよと教訓を残すために、この歌を百人一首に選んだのかもしれません。