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5.奥山(おくやま)に 紅葉(もみぢ)踏み分け 鳴く鹿の 声聞く時ぞ 秋は悲しき  猿丸太夫

小倉百人一首の五首目は猿丸太夫の歌です。この猿丸太夫という人も謎に満ちています。三十六歌仙の一人ですが、いつの時代の人かもよくわかっていません。これは、山奥から聞こえてきた鹿の鳴き声を聞いて感じた秋のさみしさを詠んだ歌とされています。

5.奥山(おくやま)に 紅葉(もみぢ)踏み分け 鳴く鹿の 声聞く時ぞ 秋は悲しき  猿丸太夫

歌の意味はおおよそ、「人里離れた奥深い山で鹿が紅葉を踏み分けて鳴いている声を聞くと、秋の悲しさが感じられるなあ」です。季節はもちろん秋です。歌人本人が紅葉を踏みながら旅をしているとの解釈もあるようですが、紅葉を踏み分けているのは鹿であると考えるのが一般的です。
秋になると聞こえる鹿の声、それは雄鹿が雌鹿を求めて鳴く声でしょう。鹿の繁殖期は9月から11月ごろといいます。この歌が詠まれたのはおそらく秋も深まったころ、10月末から11月ごろでしょうか。独り身の雄鹿もそろそろ、焦って伴侶を探しているのかもしれません。
猿丸太夫は一人旅をしていたのかもしれません。伴侶を求める雄鹿たちの鳴き声を聞くうち、自分自身の独り身のさみしさを、深まる秋の寒さと共に悲しく感じていたのかもしれません。もしかしたら、悲恋に終わったかつての恋を思いだし、悲しい想いが高まって詠んだ歌とも考えられます。
藤原定家は五首目に猿丸太夫の歌を選んだのですから、それだけ猿丸太夫は重要な大人物だったのかもしれません。あるいは、藤原定家は作者がどんな人物かについてはあまりこだわらず、歌が良かったのでこの一首を選んだとも考えられます。
猿丸太夫は謎の人物です。古今集には詠み人知らずとしてこの歌が載っています。もしかしたらかつて高貴な身分だった方が、その身分を捨て、名を捨てて隠遁生活を送るようになった、それが猿丸太夫なのかもしれません。世捨て人になった身で猿丸太夫は山奥に一人旅し、鹿の鳴き声を聞いて秋の悲しさを一層感ているのではないか、そんな想像力をかきたてられる味わい深い一首です。


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