ホーム>文化>小倉百人一首について>69.あらし吹く み室(むろ)の山の もみぢばは 竜田の川の 錦なりけり 能因法師
小倉百人一首の六十九首目は能因法師の歌です。能因法師は平安中期の僧侶であり歌人で、中古三十六歌仙の一人に選ばれています。僧侶といっても一つのお寺に定住することなく、日本各地を旅しつつ歌を詠んでいたそうです。そんな能因法師の自由な生きざまは人々の敬愛を集め、後々の世まで影響を与えています。この歌は紅葉の季節の竜田川の美しさを詠んだものです。
歌の解釈としてはおおよそ、「嵐が吹いて三室山の紅葉が竜田川に落ち、まるで錦のように美しい」です。竜田川といえば、在原業平の歌に出てきましたね。おそらくは紅葉の名所なのでしょう。まるで錦のように美しいのは、おそらくは川全体が紅葉で真っ赤に染まっていたのではないでしょうか。
能因法師は全国各地、いろいろなところを巡っては歌を詠んでいます。日本初の漂泊の歌人ともいわれています。そういう人生もけっこういいかもしれません。宮中の権力争いや、上手くいかない恋に悩み苦しんでいるよりも、俗世のしがらみを捨てて旅をしながら歌を詠んでいる方が気分的にも楽ですし、健康にも良いでしょう。
藤原定家は能因法師のこの歌を百人一首の六十九首目に選びました。定家もまた、能因法師の生き方をうらやましいと思っていたのでしょうか。あるいは、三条院の次にこの歌を持ってくることによって、宮中の権力争いに巻き込まれたり恋に悩んだりするのは苦しいばかりで良いことではない、どうせなら俗世を捨てて諸国を歌を詠みながら廻った方がいい、と主張したかったのかもしれません。